冬将軍と鍋奉行。

2014年12月16日火曜日

日常

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こんにちは。地域医療連携室の佐藤です。

昨日は当院の周辺、そして私の自宅付近でも多くの雪が
降り、雪すかし(雪かき)に追われました。

どうやら、冬将軍が活発に動き出したようです。

「やはりこれでこそ冬、これでこそ師走よのう」

強烈な寒気を伴い、各地に大雪を降らせながら、冬将軍は
満足気な表情で頷いている。

雪すかしに追われている人々を上空から見下ろしながら、
冬将軍は右手をさっと振り下ろした。

びゅーっ、という轟音と共に、地上では吹雪が巻き起こる。

「待て!もうそのあたりで止めにしないか!」

誰かが空に向かって叫んだ。地吹雪の中でかすかに取っ手
のようなものが見えている。

「誰じゃ、お前は」

冬将軍は地上に下り立ち、声の主を睨みつけた。

吹雪が収まり、やがて姿を現したのは土鍋だ。

「私は鍋奉行。暴れるのはもう止めよと言っているのだ」

「ふん、冬に冬将軍が暴れて何が悪い。各地に寒さをもたらし、
雪を降らせるのがワシの仕事よ」

冬将軍は腕組みをしながら、呆れた表情で、しかし眼光は
鋭く鍋奉行を見下ろしている。

「それが仕事だとはよくわかっておる。ただ、もう少し加減を
しながら暴れよと言っておるのだ」

「何を言い出すのかと思えば、あほらしい。雪が少なくて困って
いる者もおるではないか。スキー場とやらでは今頃、歓喜の声
が上がっておるわ」

冬将軍がぱちんと指を弾くと、大きな雪の塊が現れた。それを
片手でひょいと持ち上げ、空に向かって放り投げる。

一瞬の静寂のあと、大きな粒の雪が次々と舞い降りてきた。

「ほれ、これでまた大雪じゃ」

にやりと不敵な笑みを浮かべ、冬将軍は雪を見つめた。

「それを止めよと言っておるのだ!!確かに雪が降り喜ぶ者も
いる。しかし、それ以上に困っている者も大勢いるのだ!雪を
降らせるなとは言わん、しかし、一度に多くを降らせてしまって
はたくさんの被害が出るとわからんのか!!」

声を荒げた鍋奉行の頭の穴から、真っ白な蒸気が噴き出した。
かたかたと音を立てて揺れている蓋の隙間からは、いくつかの
食材が見え隠れしている。

「ええい、黙らんか!!ふーっ!」

大きく息を吸い、吐き出した冬将軍の口から一気に冷気が飛び出す。

「う、ううっ…!」

強烈な突風に耐え切れず尻もちをついた鍋奉行から、豆腐と
肉だんごがこぼれ落ち、一瞬で凍り付いてしまった。

豆腐は角で怪我をしてしまいそうなほどかちこちに、肉だんご
は握り締めてもまったく形を変えないほど、硬く凍っている。

「どうじゃ、いくら熱々の土鍋とはいえワシの冷気を受けては
ひとたまりもあるまい。次は冷凍鍋になるぞ」

鍋奉行にじわりと歩み寄りながら、冬将軍は続けた。

「冬は冬らしくあるべし。これが掟じゃ」

「ま、待て。本当に、本当にそれでよいと思っているのか」

鍋奉行は立ち上がり、凍った豆腐と肉だんごを拾い集めた。

冬将軍はその様子をじっと見ている。

「皆に煙たがられたままでよいのか?それが本望なのか?
一部の人間にのみ感謝され、多くの者からは嫌われる。
それが、冬将軍の本当の姿なのか?」

「何が言いたい」

冬将軍の問いに、鍋奉行が答える。

「雪を必要とする者だけではなく、雪景色を綺麗と思う者もいる。
雪が、冬があるからこそ暖かくなることを幸せに感じる者もいる。
だから、気まぐれで大暴れをするな。もっと落ち着いた冬将軍で
いればよい。その方が、皆も喜ぶ」

ため息をつき、冬将軍が口を開く。

「ぬるいことを言いおって。それは季節などというものとは無縁の
者が言えること。ワシのように冬にしか現れない者の気持ちなど
わかるまい」

鍋奉行は静かに首を振り、言った。

「季節とは無縁?これを見よ」

鍋奉行はさっと自らの蓋を取る。ぐつぐつと煮えている鍋の中に、
鮭や鶏肉や、多くの野菜が所狭しとあふれていた。

「この鍋を、暖かい季節に食べたいと思う者がどれだけいるか。
確かに、鍋は年中食べられているものではある。しかし寒いから
こそ、より美味に感じられるのだとは思わんか?」

「ワシは鍋など食べん。知ったことではないわ」

聞く耳を持たない冬将軍を諭すように、鍋奉行は口を開く。

「お互い様ということだ。冬があるから鍋がより美味しく思え、鍋
があれば冬があることの良さも感じられる」

鍋奉行は自らの鍋に手を伸ばし、器に一人分を取り分けると、
それを冬将軍に差し出した。

「とにかく食べてみろ。私も食べる」

半ば強引に器を渡された冬将軍は、渋々鮭を口に入れ、
ゆっくりと噛み締めた。

「どうだ、うまいか?冬将軍とはいえ、身体が温まるだろう」

小さく頷き、冬将軍は器の中の汁を飲み干す。

「確かに美味いな。だが、だからどうしたというのだ」

「身体だけではなく、心も温まるだろう」

鍋奉行は冬将軍が持つ器に、おかわりをよそった。

「ひとつの鍋を囲み、楽しく食べる。皆が親しくなり、心が和む。
冬の厳しさや寒さがあることで、人と人とのつながり、身体も心も
温まることの幸せをあらためて感じることができるのではないか」

「ふむ…」

冬将軍は目を閉じ、じっと鍋奉行の話を聞いている。

「そういう意味では、冬があることも悪くない。いや、当たり前
だと思っていることの素晴らしさを身を持って知るには、なく
てはならないものなのだ。だからこそ、むやみやたらに大雪
を降らせるべきではない」

目を開けた冬将軍は、手に持つ器から立ち上る湯気を見な
がら微笑んだ。

「ふっ。まさかこのワシに説教をする輩が現れるとはな。ただ、
言うことはわかる。だがもちろん、冬将軍としていつでも大人
しくしているわけにはいかんぞ」

「時には仕方あるまい。冬将軍としての面目もあるだろう」

そう言うと、鍋奉行は締めの雑炊を作り、冬将軍に手渡した。

冬将軍は左手を上げて降り続いていた雪を止め、おいしそう
に雑炊をかきこむ。

「お互いが冬の代名詞だ。どうせならば皆に良い冬を過ごして
もらった方がよい。そうであろう」

鍋奉行はそう言って右手を差し出した。

「うむ。今年はワシも少しばかりは気を遣って雪を降らせるとしよう」

冬将軍も右手を出し、二人はかたい握手を交わした。

鍋奉行には、心なしか冬将軍の手が温かく感じられたという。

いかがでしたでしょうか。

明日からは大荒れとのことですので、少しでも気を楽にするべく、
このようなお話しを書いてみました。

確かに冬は大変ですし、私は寒さも苦手ですが、前向きに捉え
て乗り切りたいと思います。

皆様、明日は通勤、通学など、外出の際にはくれぐれもお気を
付けください。

それでは。

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