社会情勢等の影響もあり、延期となっていた小学校の運動会が先日無事に終わりました。
今回は運動会自体の時間が短縮され、全学年一斉ではなく分散しての実施でしたので、いわゆる場所取りはなかったのですが、一昨年にあったある経験について本日はお伝えしたいと思います。
運動会の場所取り、それは早朝に開始されます。
佐藤は一人、学校に向かい、事前に配付された整理券の順番に従って他の父母の皆さんと共に列に並び、スタートの時を待っておりました。
競技により、学年、クラスにより、グラウンド内のベストポジションは違いますので、どの辺りに場所を取るかというのは、運動会を楽しめるか、シャッターチャンスを逃すことがないか、そしてナイスな動画を撮影できるかどうかにおいて非常に重要な意味を持ちます。
結論から言いますと、その年の佐藤は、かなり良いポジションを確保することに成功したのです。
ほぼ希望通りの場所となったことから佐藤は満足しまして、あとはレジャーシートを敷いてしっかり固定し、一度自宅に戻るだけでした。
その日はとても強い風が吹いておりましたので、強風で飛ばされないよう注意しながらシートを取り出し、それぞれの隅にある穴に杭を打って固定しようとしたのです。
ところが、ここで大きな問題が発生いたしました。
杭が、全く地面に入らないのです。
打てども打てども、杭は沈んでいかず、想像以上に硬いグラウンドに大苦戦となりました。
杭はプラスチック製だったのですが、力を込めて打ち込んでいるうちに、先の方が変形してきてしまったのです。
このままでは、ますます難しい戦いを強いられることになるのは明白でしたので、佐藤はソフトに、その分、回数を多く叩く手法に変更いたしました。
しかし、それでもいっこうに杭は地面に入っていきません。
それどころか、今度はハンマーで叩いている上側の部分においても変形が見られたのです。
佐藤、焦りました。
そうこうしている間にも強風はビュービューと吹きつけてきてレジャーシートがまくれ上がりますし、周囲の父母の皆さんは順調に固定を完了させ、グラウンドを離れていくのです。
このままハンマーで叩いては杭が完全に駄目になる…!
こうなれば、頼れるのは己の肉体のみ…!
そう考えた佐藤は、杭をそのまま直に手で持ち、グラウンドに向けてぐりぐりと、ぐりぐりと、それはもうぐりぐりと押し込んでみたのです。
その結果、杭は…、
摩擦で温かくなってぐんにゃりと曲がりました!
もう、打つ手なしです。
その上、打てる杭もなしです。
さすがに、これ以上はもう無理だろうと判断し、佐藤、SOSを送りました。
この時点で、ほとんどの父母の方々はシートの固定を終えており、広いグラウンド見渡してみても、ぽつぽつとしか人の姿はありません。
ほどなくして、援軍が到着し、今度は鉄製の杭という素晴しいアイテムを佐藤は手にいたしました。
これでようやく固定が完了する、そう思って佐藤は懸命に杭を打ったのです。
ところが、ところがです、鉄製の杭をもってしてもなお、グラウンドはビクともしません。
それどころか、鉄製ではあるものの細めの杭は、先の方でも、上側でもなく、まさに真ん中の中間部分から緩やかに曲がりかけています。
どうやら、鉄製の杭は先がかなり丸みを帯びており、決して鋭利ではなかったことから攻撃力はそれほどではなかったものと思われるのです。
さて、強風が吹き続ける中、シートが飛ばされそうになる中、佐藤の周囲には使い物にならなくなったプラスチックの杭と鉄製の杭が転がっており、グラウンドには誰一人としていなくなってしまいました。
周囲のレジャーシートを見てみますと、とてつもなく太くて頑丈な杭でガッチリと固定してあったり、小さなダンベルやら、2ℓのペットボトルに水を入れたもの数本やら、そのようなものを置いている方が多数いらっしゃったのです。
グラウンドの硬さを侮っていた佐藤は本当に困ったものの、諸事情ありまして、ペットボトルを大量に持ってきたりなどはできない状況でありました。
また、本番が始まるまでは、その場に留まるのも佐藤一人しかいない状況であったのです。
シートが飛ばされないように使えるものと言えば、佐藤の水分補給用に持っていた500mlのペットボトル1本と、佐藤が履いている靴、そして何よりも佐藤自身のこの重量級の身体、それだけしかありません。
よって、と言いますか、それしかありませんでしたので、佐藤、たった一人でレジャーシートを押さえ続けながら場所を確保することにいたしました…。
しかも、あぐらをかいたり体育座りをしていても、あまりの強風にシートのまくれっぷりがすごいことになるため、佐藤は両足を大きく広げ、両手も広げて背後につき、やや空を見上げる格好で広いグラウンドに一人待機していたのです。
運動会本番までは、まだまだ時間があります。
相当に早くから乗り込んできて、あたかもこの状況と空の様子を楽しんでいるかのような姿でぽつんと座っているぽっちゃりおじさんは、学校関係者の方々にはどのように映っていたのでしょうか。
まだ、誰もいないグラウンドという状況の方が、メンタル的には楽であったかもしれません。
自分と風との戦いだけですので。
しかし、そのうちに学校の先生方が準備のために現れましたし、お手伝いをするPTA関連の方々もやってきましたので、佐藤、皆さんからの視線が非常に気になったのです。
マイクのテストが行われている時、佐藤は変わらず空を見上げておりました。
白いラインが引かれている時、佐藤は風に巻き上げられたシートと格闘しておりました。
諸々の機材が運び込まれていた時、佐藤は自身の靴すらも飛ばされそうになってあたふたとしながらも、あくまでもあえてここにいる感を出すのに必死でした。
何かをするでもなく、設営をお手伝いできるでもなく、ただただ待つという長い戦いの末に、どんどんとグラウンドは賑わっていき、佐藤も一人でシートを押さえる必要がなくなったのです。
運動会自体は、ベストポジションだけあってしっかりと応援できました。
佐藤にとってのその年の運動会は、とても印象的であったと思います。
おそらく、学校関係者の方々からしても、佐藤の姿は印象的であったことでしょう。
もし、子ども達が教室の窓からグラウンドを見て、佐藤のことを目撃していたとしたら、滑稽過ぎます。
学年的に、午前のみの運動会であったわけですが、お昼近くになるとすぐ隣から、
「いや~、午前だけと言っても、見てるだけでけっこう疲れるね」
などという声が聞こえてきましたが、
「いやいやいや!こっちはもうめっちゃ朝からだから!運動会の設営からマイクのリハーサルから全部見てるから!座り続けてるから!準備中の皆さんの視線が気になったから!」
と、言いたい気持ちでありましたが(一部は言いましたが)、それでも、無事にその年の運動会を終え、結果も最高でありましたので、よいのです。
ただ、今年の運動会については短い時間での開催ということもあり、立ち見での応援のみでした。
かつてのように場所取りをして、たくさんの声援と共に応援できる日が早く訪れてほしいと切に思います。
グラウンドを眺めていると、あの時の場所取りの思ひ出が懐かしく感じられましたが、風は変わらず強く吹いており、そして、見上げた空はいつもと、これまでと全く変わりませんでした。
皆様におかれましても、今後運動会の場所取りをする際には、かなり硬いグラウンドに十分注意され、ぜひ万全の準備をして臨んでください。
万が一、たった一人で早朝からグラウンドに留まることになった際には、寝転がってしまったり、スマホをいじったりするよりも、堂々とその瞬間を楽しんでいるかのような雰囲気を出していくことをおすすめいたします。
それでは。